こんばんは、慧です。
オリンパスのPENシリーズといえば、フィルムカメラ初心者が序盤によく出会うカメラの一つ。
その中でもPEN-Dは、備え付けの露出計で光の量を測り、その値からシャッタースピードと絞りをマニュアルで設定する楽しいカメラ。
今回は、ジャンク品としてゲットしたPEN-Dの露出計が壊れていたので、100均で代わりの部品を調達し修理してみたというお話。
オリンパスPEN-Dの特徴
今回の修理対象はオリンパス製のPEN-D。
1962年発売のコンパクトなフィルムカメラです。
ジャンク品であればフリマアプリで1000円台でゲットできるけど、最低限のクリーニングは必須。
上の写真は修理・クリーニング後のもので、この状態だと1万円くらいで流通しています。
まずはそんなオリンパスPEN-Dの主な特徴を3つ紹介していきます。
ハーフサイズカメラ
PENシリーズと言えばハーフサイズカメラです。
ハーフサイズというのは、写真一コマが通常(35mmフィルム)のカメラの半分の大きさという意味です。
下の写真がその作例です。(PEN-Dで撮ったものです)
横長の一コマ分の写真に、半分の大きさの写真が縦に2枚並んでいます。
このように写る理由はとても単純。
レンズを通った光が、フィルムの半コマ分の面積にしか当たらないからです。
以下がPEN-Dのフィルム室です。
レンズの手前に縦長の四角い穴が開いています。
このおかげで通常27枚撮りのフィルムなら、2倍の54枚の写真が撮ることができる。
たぶんこの時代は(も)フィルムが高価だったため、1本のフィルムでたくさん写真が撮れるカメラにニーズがあったのでしょう。
フルマニュアル操作
2つ目はシャッタースピード、絞り、フォーカスなどすべてマニュアル設定であること。
備え付けの露出計の指針を見て、都度自分で露出を決めて撮影します。
以下のようにレンズ周りにたくさんの数字が書いてあって、露出の仕組みをお勉強するのに丁度良いカメラです。
露出計はカメラ上部にあり、指針は上から覗き込んで確認します。
光が少ない屋内や夕刻では数字(以降EV値と呼ぶ)が小さく、明るい場所ではEV値が大きくなる。
※注意:「EV値」ではなく、正しくは「LV値」と呼びます。以後、「EV値」は「LV値」と読み替えてください。(2022年2月23日追記)
このEV値に合わせて、シャッタスピードと絞りを合わせていきます。
大口径レンズ搭載
3つ目の特徴は、PENシリーズの中でもレンズがでかいことです。
以下、PEN-S(左)とPEN-EES2(右)を並べてみると、一目瞭然でPEN-D(中央)のレンズが大きいことがわかります。(ちなみに左から発売順に並んでいます)
細かい話をすると、PEN-Dのレンズは焦点距離÷レンズ口径が1.9であり、とても明るいレンズと言える。
この数字をF値と呼び、一般にF値が小さい方(レンズが大きい方)が光を多く取り込むことができる。
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不具合:露出計の不良
さて、本題のカメラ修理についてです。
ジャンク品だったこともあり、露出計がほとんど光に反応しませんでした。
幸い、シャッターや絞りは動作するので、露出計が直せればほぼ復活です。
原因:セレン電池の劣化
そもそも露出計というのは、中に太陽電池・コイル・磁石が入っていて、太陽電池に光が当たることで電気が流れ指針が動きます。
この時代の太陽電池にはセレン(Se:原子番号34)という物質が表面に塗られていて、セレン光電池とも呼ばれています。
今回の露出計は、セレン部分が(たぶん)寿命で光を感じ取れない状態になっていました。
以下のように、生きているセレンと比較すると表面の色が異なることが分かります。
左が感度不良のセレン電池で、右が元気なセレン電池。
生きている方は青紫色にきらきらしています。
セレン電池式の露出計を修理する場合は、生きているものと交換すれば良いです。
しかし、今回は別の素材を使って修理してみることにします。
対策:電卓用太陽電池に交換
修理に使うのは現代の太陽電池です。
最も安価に手に入るのは、100均の電卓にくっついている太陽電池。
PEN-Dの修理のために存在すると言っても過言ではないほど、サイズがぴったりです。
欲を言えば、配線の場所も揃えてほしかった。
修理は簡単で、死んだセレン電池を切り離し、電卓の太陽電池を繋ぎ変えます。
普通は半田ごてを使うのだろうけど、実験的にすぐ取り外せるようにテープで固定するだけに留めました。
修理自体はこれでおしまいで、あとはPEN-Dの露出計として妥当かどうかを確認していきます。
実験:電卓用太陽電池の妥当性
電卓用太陽電池を積んだ露出計が、PEN-Dでの撮影に適しているか事前に実験です。
生きているPEN-Dの露出計があるので、同じ条件で光を当てて反応を比較していきます。
光応答特性の比較
まず、光源からの距離と指針の振れを観察します。
露出計を光源に近づければ、指針は大きく振れ、離していくと小さく振れるはずで、その振れ具合を比較する。
まずはLED光源を使っての比較です。
なお、指針はEV値で7~17で、実験のイメージ図は以下の通り。
実験の結果は以下のグラフに示す通りです。
セレン電池は、LED光源から最も近い場所(0cm)でEV値16、170cm以降でEV値7となりました。
一方、電卓用太陽電池は、0cmから10cmでEV値17、140cm以降でEV値7です。
各距離dでのEV値は最大で±2の差があり、距離10cmから20cmのところ(図中の領域2)で特性が逆転しています。
従って、領域2では電卓用太陽電池の露出計の指針はそのまま適用できそうですが、それ以外の領域(1,3,4)ではセレン電池との差分が撮影にどの程度影響するかを確認しないといけない。
補足として、光源の種類の違いも考慮し太陽光での反応も比較してみました。
露出計の向きを、太陽光の方角が0°として、そこから15°刻みで変えることで光量を調節し、指針の振れを確認します。
また、ND32フィルタを使って(光量を5段階落として)同じことをしました。
結果は以下のグラフの通りです。
フィルタを使っていない場合では、おおむねLED光源での結果の領域1と似ています。
フィルタを使った場合だと、同じく領域2、3と似た結果になります。
特性の逆転がEV値14のあたりで発生するのは、太陽光でもLED光源でも変わらないと言えそうです。
各EV値での露出設定
以上の実験結果から、セレン電池と電卓用太陽電池で表示されるEV値の範囲で、撮影結果にどの程度影響が出るかを実際に写真を撮って確認します。
参考に、以下が目安となるEV値と撮影条件です。(カメラのISO感度設定は200)
左図のピンク色のマーキングがされている箇所(EV表示値に対して最大で±2EVの範囲)で撮影をして、写真としての成立性を確認する。
この範囲で過度な白飛びや黒潰れなどが無ければ、電卓用太陽電池での換装は成功。
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作例:ARISTA EDU ULTRA B&W 200
それでは、修理後のPEN-Dの作例を以下の領域ごとに紹介していきます。
最後に雨の日に撮った写真も載せています。
※今後、作例写真にはPEN-DのEV表示値と、撮影時のEV設定値、シャッタースピード、F値を記載していきます。
使ったフィルムはチェコ製(?)のARISTA EDU ULTRA Black & White 200です。
学生(EDU)向けらしいので1本1000円以下で買えてしまう、今では珍しいリーズナブルなフィルム。
ISO感度はこの200の他に100と400がありバリエーションも豊富です。
ちなみに横浜駅構内にある有名なカメラ屋さんで購入しました。
領域1:晴れの日の屋外など(EV15~17)
まずは領域1の明るい場所で撮った写真です。
電卓用太陽電池では、EV14を超えるとセレン電池より感度が高くなります。
よって、表示値と同じかそれより低い値で写真が成立するか確認しました。
設定EV15
(1/250sec F16)
設定EV16
(1/500sec F11)
どちらも白飛び、黒潰れなく、丁度良く撮れています。
このフィルムの特徴のせいか、黒がしっかりしている気がします。
領域2:日中の日陰・夕刻など(EV13~15)
領域2は、セレン電池と感度が近いので、表示値±1の設定で様子をみます。
設定EV14
(1/500sec F8)
設定EV15
(1/500sec F11)
これらの写真も問題なさそうです。
PC上で拡大して見てみると、そんなに粒状性は良くはなさそうです。空の部分がざらざらしています。
しかし値段が安いので許容範囲だと思います。
設定EV12
(1/250sec F5.6)
設定EV14
(1/500sec F8)
EV表示値13に対して、±1ずらしても問題なし。
領域3:屋内・曇日など(EV9~13)
領域3は、屋内と日が沈みかけてきてから撮っています。
この領域からは、電卓用太陽電池の感度が低くなってきます。
そのため、表示値と同じか、+2程度の設定で確認します。
設定EV9
(1/250sec F1.9)
設定EV11
(1/250sec F4)
表示値9のとき、設定値を9と11にしても、問題なさそうです。
もしかすると、逆に設定値を下げても成立したと思います。
それにしても黒が濃くて良い感じです。
設定EV11
(1/500sec F2.8)
設定EV13
(1/500sec F5.6)
夕刻の写真もちゃんと撮れましたが、夕刻感を出すのは難しいですね。
そこはカラーフィルムの役目でしょうか。
領域4:屋内・日没など(EV7~9)
領域4は、日が沈んだ後と屋内で撮っています。
EV表示値が完全に7になる手前までの写真です。(PEN-Dは表示値の最小値が7です)
この領域でも、セレンの方が感度が高く、表示値+2まで設定して確認します。
設定EV8
(1/125sec F1.9)
設定EV10
(1/250sec F2.8)
神社の写真は光源がほとんど無いので、べったりとした写真になりました。
屋内の写真は、光源があり、白と黒両方がちゃんと表現できているように見えます。
設定EV7
(1/60sec F1.9)
設定EV9
(1/250sec F1.9)
この2枚はぎりぎりEV表示値が7の写真です。
特に右の写真は「光を捉えている」感じがして好みです。
番外編:雨の日の夜(EV7以下)
最後に番外編として、露出計の測定限界を超えた暗い場所での写真です。
PEN-Dの設定上はEV1相当(1sec F1.9)までの撮影ができると思います。
今回は、EV6と5の写真を紹介します。
設定EV6
(1/30sec F1.9)
設定EV5
(1/15sec F1.9)
雨に濡れた地面が車のライトに照らされて、非常におしゃれに仕上がりました。
個人的には、「雨の日は出かけたくないなぁ」という気分を「雨の写真を撮りに行きたい」に変えてくれた写真です。
退屈しない人生を共に
オリンパスPEN-Dの修理記録と、モノクロ写真の作例を紹介してみました。
他のPENシリーズやTRIP35の円形セレン電池とは異なり、長方形だと代用品が入手しやすいのでとても助かります。
それに手頃にフルマニュアルの撮影ができ、ハーフサイズでフィルムの節約もできる優秀なカメラ。
「写ルンです」からステップアップするのにぴったりだと思います。
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